かわいいむすこはずるい。

2016年春に息子が生まれました。

アイドル赤ちゃん笑顔の秘訣

息子はよく笑う。「こんなに笑う赤ちゃんははじめてだ」と度々言われるほど、初対面でも誰彼かまわず愛想をふりまき、声を出してキャッハーと笑うので、顔立ちは大したことは無いのだが、誰もが可愛い可愛いとメロメロになってしまう。

 

先日は公園で鬼ごっこをしていた小学生8人組に取り囲まれ、なで回され抱き上げられで、息子は上機嫌だった。2時間は公園から帰れなかった。鬼ごっこの中継地点になってしまったのだ。走り回る女の子たちはかわるがわる息子の方へ戻ってきてはひとなでしていき、そのたびに息子は大喜びし、女の子たちは可愛い可愛いと大騒ぎでキャッキャウフフの桃色演舞が催された。

 

近所のおばぁさんに挨拶をされては笑い、カメラを向けては笑い、女湯で女子大生をナンパしては笑い、LINEの動画通話で笑い、3歳児の双子に遊んでもらっては笑い、お年玉を受け取っては笑い、転んで泣いても3秒で立ち直って笑い、この子は誰に似たのだとコミュ障をさらっとディスられる母は苦笑いなのだった。

 

この人がずっと笑っているのは絶対に私のおかげなのだと心の中でこっそりと思っている。


生まれたばかりの息子が私のベッドに運ばれて来た時、私はひかえめに言っても、人生最悪の状態だった。

帝王切開後の痛みが酷く、肘から先だけしか動かすことができなかったのだ。手術のために絶飲食で水すら飲んでいなかったし、手術の前に30時間の陣痛も味わったためほぼ一睡もできていなかった。赤ちゃんとか今はちょっとええですわ。来られても何もできんし、と思っていた。

 

しかし諸悪の根元である息子が私のベッドにそっと寝かされた時、どういうことか、それまでのつらさが100分の1くらいにふっと軽くなったのだ。初対面で私は、息子に笑ってあげることができた。

あれから10ヶ月の間、疲労困憊、五里霧中、満身創痍、四苦八苦、七転八倒でもうやってられっかーと思いながら息子をなんとか生きながらえさせてきたが、そんな中でもあの時と同じことが、何度も起こるのだ。どんなに眠くても、疲れていても、息子を抱きしめると、ふっと軽くなる瞬間がある。

 

私が笑うから、息子が笑うのだ。

 

孫をはじめて抱いたうちの両親。夫の両親と姉。ふにゃふにゃでしわしわの息子を見て、顔をくしゃくしゃにして笑った。田舎で暮らす私の祖父母は、ようやくずりばいをはじめた曾孫を眩しそうに見つめ、叔父と3人かかりでミルクをあげてくれた。

 

あの人たちがあんなふうに笑う顔を、私は見たことがあっただろうか。

周囲の大人たちがそんなふうに自分を見つめて笑ってくれたら、息子は笑うようになるに決まっているじゃないか。

 

私がかつて赤ちゃんだった頃もあの人たちはそんなふうな顔をして私を見つめてくれていたことがあったかもしれない。もう記憶になかったあの表情を、もう一度見ることができたのは、息子が笑うからなのだから、私も笑うしかない。

 

そういえば、息子の名前は夫がぽろっと言った「この子はみんなの希望の光だね」にちなんで命名しました。なかなか難しい人生だけど、どんな時も明けない夜はない、と大きくなったら伝えたいと思っています。